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IPR(歯と歯の間を少し削る処置)とは?矯正で行う理由・痛み・虫歯への影響を解説

2026.09.28

はじめに

マウスピース矯正やワイヤー矯正の説明を受けたとき、

「歯と歯の間を少し削ります」

と言われて、不安になったことはありませんか?

「健康な歯を削って大丈夫なの?」

「削ったところから虫歯にならない?」

「痛くないの?」

「歯が細くなったり、弱くなったりしない?」

こうした疑問を持つのは自然なことです。

矯正治療で歯と歯の間を少量調整する処置を、IPR(Interproximal Reduction:歯間隣接面削合)といいます。

結論からいうと、IPRとは、歯の表面を覆っているエナメル質の範囲内で、歯と歯が接触している部分を計画的にごく少量調整し、歯を並べるためのスペースなどを作る処置です。

虫歯治療のように歯の内部まで大きく削る処置とは性質が異なります。

適切な診断と計測のもとで必要量を管理して行えば、矯正治療における有用なスペース獲得方法のひとつです。

実際、臨床研究をまとめたシステマティックレビューでは、適切に行われたIPRについて、虫歯の増加、歯周組織への明らかな悪影響、持続的な知覚過敏などは確認されていません。

一方で、

「IPRは安全だから、必要なだけいくらでも削ってよい」

という意味ではありません。

歯によってエナメル質の厚みは異なります。

また、必要なスペース量、歯の大きさ、歯の形、歯根の位置、噛み合わせ、治療後の歯列などによって、IPRを行うべきかどうかも変わります。

重要なのは、

「IPRをするかどうか」ではなく、「なぜIPRが必要なのか、どこを、どの程度調整するのか」

が診断によって決められていることです。

この記事では、

  • IPRとは何か
  • どれくらい歯を削るのか
  • なぜ矯正治療でIPRを行うのか
  • IPRと抜歯の違い
  • 痛みはあるのか
  • 虫歯になりやすくならないのか
  • 知覚過敏は起きないのか
  • マウスピース矯正でIPRがよく使われる理由
  • IPRをしすぎると何が問題なのか
  • ブラックトライアングルとの関係

まで、患者さま向けにできるだけ分かりやすく解説します。


IPRとは?

IPRとは、Interproximal Reductionの略です。

日本語では、

  • 歯間削合
  • 隣接面削合
  • エナメルストリッピング
  • ストリッピング
  • ディスキング

などと呼ばれることがあります。

行っていることは、歯と歯の接触している部分のエナメル質を少量調整する処置です。

たとえば、

「この歯とこの歯の間に0.2mmのスペースを作る」

といったように、治療計画に合わせて必要な量を調整します。

矯正治療では、歯をきれいに並べるために「場所」が必要です。

ガタガタしている歯を一列に並べようとしても、歯の大きさに対して顎のスペースが不足していれば、そのままでは並びません。

そこで、

  • 歯列を拡大する
  • 奥歯を後方へ移動する
  • 前歯を前方へ動かす
  • 歯を抜く
  • IPRを行う

などの方法を組み合わせてスペースを作ります。

IPRは、その選択肢のひとつです。


「歯を削る」と聞くと怖い理由

患者さまに、

「少し歯を削ります」

と説明すると、不安になる方が少なくありません。

これは当然です。

一般的に「歯を削る」という言葉から想像するのは、虫歯治療だからです。

虫歯治療では、虫歯になった部分を除去するためにエナメル質だけでなく、その内部にある象牙質まで削ることがあります。

場合によっては神経に近いところまで処置することもあります。

一方、矯正治療で行うIPRは基本的に、

歯の最も外側にあるエナメル質の範囲内で、必要量だけを調整する

という考え方です。

したがって、

虫歯治療で歯を大きく削ることと、矯正治療のIPRを同じものとして考える必要はありません。


エナメル質とは?

エナメル質とは、歯の表面を覆っている非常に硬い組織です。

歯は外側から、

エナメル質 → 象牙質 → 歯髄

という構造になっています。

歯髄には神経や血管があります。

しかし、エナメル質そのものには神経がありません。

そのため、適切な範囲でエナメル質だけを調整するIPRでは、通常、虫歯治療のような鋭い痛みは生じにくいと考えられます。

ただし、歯肉への刺激や器具による振動、歯の状態などによって違和感を感じることはあります。


IPRではどのくらい削るの?

IPRというと、

「歯が目に見えて小さくなるくらい削る」

と想像するかもしれません。

実際には、1か所あたりに調整する量は通常非常に小さな単位です。

治療計画では、

  • 0.1mm
  • 0.2mm
  • 0.3mm
  • 0.4mm

など、0.1mm単位で設定されることがあります。

たとえば歯と歯の間に0.2mmのスペースを作る場合、それぞれの歯からごく少量ずつ調整することがあります。

肉眼ではわずかな違いでも、複数の歯間で行うとスペースを積み重ねることができます。

たとえば5か所でそれぞれ0.4mmのスペースが得られれば、

合計2mm

のスペースになります。

矯正治療では、この数mmが大きな意味を持ちます。


IPRで歯を並べるスペースを作る

IPRの代表的な目的が、叢生(そうせい)を改善するためのスペース確保です。

叢生とは、一般的に「歯のガタガタ」と呼ばれる状態です。

たとえば歯をきれいに並べるために2mmのスペースが不足しているとします。

その2mmを作る方法はいくつかあります。

歯列を少し広げて作ることもできます。

前歯を少し前へ動かすこともできます。

奥歯を後ろへ動かすこともできます。

そして、複数の歯と歯の間でIPRを行い、合計2mmを確保する方法もあります。

重要なのは、

「スペースがない=とりあえずIPR」ではない

ということです。

どの方法でスペースを確保するのが適切かは患者さまによって違います。


IPRをすれば抜歯しなくて済む?

IPRは非抜歯治療でスペースを獲得する方法のひとつです。

しかし、

「IPRをすれば、どんな症例でも抜歯を避けられる」

わけではありません。

たとえば非常に大きなスペース不足がある場合、IPRだけでは十分なスペースを作れないことがあります。

また、

  • 前歯がすでに大きく前方傾斜している
  • 口元の突出を改善したい
  • 上下顎の前後的位置に問題がある
  • 奥歯の噛み合わせを大きく変更する必要がある

といった場合には、単純にIPRだけで治療することが適切とは限りません。

つまり、

抜歯とIPRは「どちらが良いか」という単純な比較ではなく、必要な歯の移動量が違います。


抜歯とIPRでは作れるスペース量が大きく違う

小臼歯を1本抜歯すると、一般的にはその歯の幅に相当する比較的大きなスペースが生まれます。

一方、IPRは複数の歯間から少量ずつスペースを確保する方法です。

そのため、

  • 軽度のスペース不足
  • 中等度までの叢生の一部
  • 歯のサイズバランスの調整

などではIPRが適している場合があります。

一方で、大きな前歯後退量が必要な症例などでは、抜歯によって得られるスペースが必要になることがあります。

「歯を抜きたくないからIPRをする」という順番ではなく、治療目標から必要なスペース量を逆算することが重要です。


IPRを行うもう一つの目的は「歯の形」を整えること

IPRは単にスペースを作るためだけに行うものではありません。

歯の形を調整する目的で行うこともあります。

たとえば前歯を正面から見ると、

  • 四角い歯
  • 丸い歯
  • 三角形に近い歯

など、患者さまによって形が異なります。

特に三角形に近い歯では、歯の先端側は幅が広い一方、歯肉側は細くなっています。

このような歯を単純に並べると、歯の先端部分は接触していても歯肉側に隙間が残ることがあります。

この隙間が、いわゆるブラックトライアングルです。


ブラックトライアングルとは?

ブラックトライアングルとは、歯と歯の間の歯肉が十分に満たされず、三角形の黒い隙間のように見える状態です。

特に、

  • 前歯の重なりが強かった方
  • 歯が三角形に近い方
  • 歯周組織が下がっている方
  • 成人の矯正治療

などで目立つことがあります。

ガタガタの歯が重なっている間は見えなかった隙間が、歯をきれいに並べることで初めて見えるようになることもあります。

このような場合、IPRを利用して歯の接触形態を少し変更することがあります。

歯の一番幅広い部分をわずかに調整すると、歯同士をもう少し近づけることができます。

その結果、接触点を歯肉側へ移動できる場合があります。

つまりIPRは、

スペースを作るだけではなく、歯の形態や接触関係を整えるために使うこともある

ということです。


IPRは歯の大きさの左右差を整えることもある

人間の歯は、すべて理想的な大きさで生えてくるわけではありません。

上の前歯と下の前歯の大きさのバランスが合っていないことがあります。

矯正学では、上下の歯のサイズバランスを評価する考え方としてBolton分析などがあります。

たとえば下の前歯が上の前歯に対して相対的に大きい場合、そのまま歯を並べるだけでは、

  • 前歯の噛み合わせ
  • オーバージェット
  • スペース
  • 正中
  • 犬歯関係

などに影響することがあります。

このような場合に、一部の歯でIPRを行って歯の幅を調整することがあります。

つまりIPRは、

単純な「削ってスペースを作る処置」ではなく、上下の歯のサイズバランスを整えるための矯正手段でもあります。


マウスピース矯正でIPRがよく使われる理由

マウスピース型矯正装置の治療計画を見ると、

「IPR 0.2mm」

「IPR 0.3mm」

などと表示されていることがあります。

そのため、

「IPRはマウスピース矯正特有の処置」

と思われることがあります。

しかし、IPRはマウスピース矯正だけの処置ではありません。

ワイヤー矯正でも長く使用されてきた方法です。

マウスピース矯正では3Dシミュレーション上で、

  • 何mmスペースが不足しているか
  • どの歯間にスペースが必要か
  • いつIPRを行うか

を視覚的に設定しやすいため、患者さまがIPRの存在を認識しやすくなっています。


シミュレーションに表示されたIPRは必ずその量を削る?

必ずしも「画面に表示された数字どおり機械的に削ればよい」というものではありません。

実際の口腔内では、

  • 本当に予定どおり歯が動いているか
  • 現在どれだけスペースがあるか
  • 歯同士の接触状態
  • 歯の形
  • エナメル質の状態

などを確認する必要があります。

治療の進行によっては、IPRの量やタイミングを調整することがあります。

つまり、

シミュレーション上のIPR量は治療計画であり、実際の口腔内を確認しながら臨床的に管理することが重要

です。


IPRは痛い?

多くの患者さまが最も気になるポイントです。

基本的にIPRではエナメル質の範囲内を調整します。

エナメル質そのものには神経がありません。

そのため、適切に行われるIPRでは通常、虫歯を深く削るときのような痛みは生じにくい処置です。

多くの場合、麻酔を使用せずに行うことができます。

ただし、

  • 器具の振動
  • 歯を押される感覚
  • 歯間へ器具が入る感覚
  • 歯肉への刺激

などを不快に感じることがあります。

「痛い」というより、 振動や圧迫感が苦手 と感じる患者さまもいます。


どんな器具でIPRをするの?

IPRには複数の方法があります。

代表的には、

  • 手用の研磨ストリップ
  • ダイヤモンドストリップ
  • 回転式ディスク
  • 専用バー
  • 振動式・往復式のIPR器具

などがあります。

必要なIPR量や歯の位置、使用するシステムなどによって使い分けます。

細かな量を調整するときにはストリップを使用することがあります。

ある程度の調整量が必要な場合にはディスクなどを利用する場合もあります。

どの器具を使う場合でも重要なのは、

削る量を管理すること です。


どうやって0.1mm単位を測るの?

目分量だけで判断するのではなく、必要に応じてゲージを使用します。

IPRゲージには、

  • 0.1mm
  • 0.2mm
  • 0.3mm
  • 0.4mm
  • 0.5mm

など複数の厚みがあります。

IPR後の歯間へゲージを通して、どの程度のスペースが確保できているかを確認します。

このように、

計画 → 削合 → 計測 → 必要に応じた追加調整

という流れで管理します。

IPRでは数mmを一気に削るわけではありません。

0.1mm単位の調整を積み重ねます。


IPRをすると虫歯になりやすくなる?

最も多い不安のひとつです。

「歯の表面を削ったら、虫歯に弱くなるのでは?」

と思うのは当然です。

IPR直後のエナメル質表面は、使用する器具によって細かな凹凸が生じることがあります。

そのため、処置後には表面を滑らかにする研磨が重要になります。

過去のシステマティックレビューでは、IPR後のエナメル表面の粗さは処置方法によって異なるものの、適切な仕上げ・研磨によって粗さを改善できるとされています。

さらに臨床研究をまとめたレビューでは、適切に行われたIPRによって虫歯発生率が明らかに高くなるとは確認されていません。

ただし、研究数やエビデンスの質には限界があります。

したがって、

「絶対に虫歯リスクが増えない」と断定するのではなく、適切な削合量・研磨・口腔衛生管理が重要

と考えるのが適切です。


削ったエナメル質は元に戻る?

一度物理的に削ったエナメル質が、同じ厚さに完全に再生するわけではありません。

これはIPRを理解するうえで重要です。

そのため、 必要以上に削らないこと が非常に重要になります。

一方、エナメル質表面では唾液やフッ化物などの影響を受けながら、脱灰と再石灰化が日常的に起こっています。

IPR後も適切な口腔衛生管理やフッ化物を含む歯磨剤の使用などによって、エナメル質表面を健康に維持することが大切です。


IPRをすると知覚過敏になる?

「削ったあと冷たいものがしみるのでは?」

という心配もあります。

適切なエナメル質の範囲内で行われるIPRでは、象牙質を露出させることを目的としていません。

臨床研究をまとめたシステマティックレビューでは、IPR後に持続的な歯の知覚過敏が増えるという明確な結果は確認されませんでした。

一方で、一時的な違和感や知覚過敏を感じる患者さまがまったくいないわけではありません。

歯の状態にも個人差があります。

処置後に強い知覚過敏が持続する場合には、担当する歯科医師へ相談することが重要です。


IPRをすると歯が弱くならない?

IPRでは歯の幅をわずかに調整します。

そのため、

「歯が折れやすくならない?」

と心配する方もいます。

IPRは、エナメル質の範囲や歯の形態を考慮して、必要量を限定して行うことが前提です。

歯の構造を大幅に失わせる処置ではありません。

一方で、削合可能な量には限界があります。

歯によってエナメル質の厚みは違います。

特に前歯と奥歯では隣接面のエナメル質の厚みが異なります。

さらに、患者さまごとの個体差もあります。

そのため、

すべての歯を一律に0.5mm削ってよい、というような考え方は適切ではありません。


「エナメル質の50%まで削れる」は単純なルールではない

IPRについて調べると、

「隣接面エナメル質の50%までなら削ってよい」

といった記載を見ることがあります。

古くからの文献では、そのような目安が提示されています。

しかし、患者さんの歯のエナメル質厚は均一ではありません。

歯種によっても違います。

左右でも完全に同じとは限りません。

そのため現代の臨床では、

「50%だから大丈夫」と単純に計算するのではなく、その歯の形態や必要な移動量を考えて個別に判断すること

が重要です。

IPRは「どこまで削れるか」を競う処置ではありません。

必要最低限の量で治療目標を達成することが基本です。


IPRをしすぎると何が問題?

必要量を超えてIPRを行えば、当然問題になる可能性があります。

たとえば、

  • エナメル質が必要以上に薄くなる
  • 歯の形が不自然になる
  • 歯と歯の接触関係が変わりすぎる
  • スペースが余る
  • 知覚過敏などの問題につながる可能性
  • 治療計画そのものに影響する

などが考えられます。

一度削ったエナメル質は簡単に元へ戻せません。

だからこそ、

「IPRができるか」ではなく、「IPRが本当に必要か」を先に診断すること

が重要です。


必要なスペース以上にIPRをしてはいけない理由

たとえば歯を並べるために必要なスペースが2mmだったとします。

それにもかかわらず4mmのIPRを行えば、2mmの余分なスペースが生まれます。

そのスペースを閉鎖するためには、今度は歯を余計に移動させなければなりません。

つまり、

必要以上のIPRは治療を早くするどころか、不要な歯の移動を増やす可能性があります。

矯正治療では、

「何mm削れるか」

よりも、

「最終的な歯の位置から逆算して、何mm必要なのか」

を考えることが重要です。


IPRと拡大、どちらが良い?

ガタガタを改善する方法として、歯列を拡大する方法もあります。

では、

「歯を削りたくないから、全部拡大すればいいのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、拡大にも限界があります。

歯は歯槽骨という骨の中に存在しています。

無制限に外側へ拡大できるわけではありません。

特に下顎前歯などを大きく外側へ傾斜させる場合には、歯根と歯槽骨との位置関係を考える必要があります。

そのため、

  • IPR
  • 拡大
  • 前歯の傾斜
  • 臼歯遠心移動
  • 抜歯

のどれが最も適切かは、症例によって異なります。


IPRを減らせば良い治療?

IPRを少なくすること自体が治療の目的ではありません。

IPRが必要な症例で無理に避ければ、スペースを確保するために前歯を必要以上に外側へ傾けなければならない場合があります。

その結果、

  • 前歯が前に出る
  • 口元が突出する
  • 歯根と骨の位置関係が変わる

可能性があります。

反対に、IPRが必要ない症例で不必要に行うべきでもありません。

つまり、

IPRは多い・少ないで評価するのではなく、治療計画に対して適切かどうかで評価する

必要があります。


前歯を前に出すか、IPRをするかで横顔が変わることもある

スペース不足を解消するとき、

IPRをしなければ、その分だけ別の方法でスペースを作る必要があります。

その選択肢のひとつが、前歯を前方へ傾斜させることです。

しかし前歯を大きく前方傾斜させれば、口元の見た目にも影響する可能性があります。

特に治療前から口元の突出を気にしている患者さんでは、

「歯並びはきれいになったけれど、前歯が前に出た」

という結果を望んでいないことがあります。

だからこそ、

IPRの必要性を判断するときにも、歯並びだけではなく横顔や口元まで考えることが重要です。


IPRは「マウスピースを入れるための作業」ではない

マウスピース矯正では治療シミュレーション上にIPR量が表示されるため、

「ソフトウェアが0.3mmと表示したから0.3mm削る」

という単純な処置に見えるかもしれません。

しかし、本来はそうではありません。

重要なのは、

  • なぜそのスペースが必要なのか
  • そのスペースでどの歯を動かすのか
  • 前歯をどこに置くのか
  • 奥歯をどこに置くのか
  • 最終的にどう噛ませるのか

という治療目標です。

IPRの数字は診断ではなく、診断を実現するための治療設計の一部です。


IPRは治療のどのタイミングで行う?

IPRを行うタイミングは治療計画によって異なります。

治療開始時に行う場合もあります。

ある程度歯を並べてから行う場合もあります。

複数回に分ける場合もあります。

たとえば歯が強く重なっている場合、最初から歯と歯の接触部へ器具を入れにくいことがあります。

その場合、まず歯を少し動かし、アクセスしやすくなってからIPRを行うことがあります。

また、一度に予定量をすべて調整せず、歯の移動を確認しながら段階的に行う場合もあります。


IPR後に歯と歯の間に隙間があるけれど大丈夫?

IPR直後は、一時的に歯と歯の間に小さな隙間が見えることがあります。

これは異常とは限りません。

そのスペースは、これから歯を動かすために意図的に作った可能性があります。

アライナーやワイヤーによって歯が予定位置へ移動すると、そのスペースは閉じていきます。

ただし治療計画によって異なりますので、気になる場合は担当医に確認してください。


IPR後のケアは?

IPR後だからといって、特別に複雑なケアが必要になるとは限りません。

ただし歯と歯の間は、もともと歯垢が残りやすい場所です。

そのため、

  • フッ化物配合歯磨剤を使用する
  • 歯ブラシを丁寧に行う
  • デンタルフロスを使用する
  • 必要に応じて歯間ブラシを使用する
  • 定期的な歯科検診を受ける

といった基本的な口腔衛生管理が重要です。

特に矯正治療中は装置によって清掃が難しくなることがあるため、IPRの有無にかかわらず虫歯予防が大切です。


IPRをする・しないは診断によって決まる

矯正治療を検討するとき、

「IPRをする医院は良くない」

「IPRをしない医院のほうが歯に優しい」

という単純な判断はできません。

逆に、

「IPRをすれば抜歯を避けられるから良い」

とも限りません。

患者さまによって、

  • 歯の大きさ
  • 顎の大きさ
  • ガタガタの量
  • 前歯の傾斜
  • 歯根位置
  • 歯槽骨
  • 上下の歯のサイズバランス
  • 口元
  • 横顔
  • 噛み合わせ

が違うからです。

治療計画の中で必要なスペース量を計算し、そのスペースをどの方法で作るのかを判断する必要があります。


よくある質問 Q&A

Q1. IPRは健康な歯を削っても大丈夫なのですか?

IPRでは基本的に、歯の表面にあるエナメル質の範囲内を計画的に少量調整します。

臨床研究をまとめたレビューでは、適切に行われたIPRによる明らかな虫歯増加や持続的な知覚過敏、歯周組織への悪影響は確認されていません。

ただし、エナメル質の厚みには限界があるため、必要量を適切に管理することが重要です。

Q2. IPRは痛いですか?

エナメル質自体には神経がないため、通常は麻酔を必要としないことが多い処置です。

ただし、器具の振動や圧迫感、歯肉への刺激を不快に感じることがあります。

Q3. IPRをすると虫歯になりやすくなりますか?

現時点の臨床研究では、適切に行われたIPRによって虫歯発生率が明らかに増加するという結果は示されていません。

ただし、IPR後の研磨や日常の口腔衛生管理は重要です。

Q4. IPRと抜歯ならどちらが良いですか?

どちらが優れているというものではありません。

必要なスペース量や、前歯をどこへ移動させたいかによって適した方法が異なります。

数mm程度のスペース調整にIPRが有効な場合もあれば、大きな移動量が必要で抜歯が適切な場合もあります。

Q5. マウスピース矯正では必ずIPRが必要ですか?

いいえ。

IPRが不要な症例もあります。

逆にワイヤー矯正でIPRを行う場合もあります。

IPRの必要性は装置の種類ではなく、必要なスペース量や治療計画によって決まります。


歯列矯正専門医からのアドバイス

IPRについて最も大切なのは、

「健康な歯を削るのは良いか、悪いか」という二択だけで考えないこと

です。

矯正治療では、歯を並べるためのスペースをどこかから作る必要があります。

その方法には、

  • IPR
  • 歯列の拡大
  • 奥歯の遠心移動
  • 前歯の位置変更
  • 抜歯

などがあります。

どの方法にも、それぞれ適応と限界があります。

たとえばIPRを避けるために前歯を大きく外側へ傾斜させれば、口元や横顔に影響する可能性があります。

反対に、IPRで対応できる軽度のスペース不足に対して、必要以上に大きな処置を選択することが適切とは限りません。

だからこそ重要なのは、

「IPRをするか」ではなく、「最終的に歯をどこへ置きたいのか」

です。

矯正治療では、

診断 → 治療目標 → 必要な歯の移動量 → 必要なスペース量 → スペースを作る方法

という順番で考えることが重要です。

そのためには歯並びだけでなく、

  • 歯の大きさ
  • 歯根の位置
  • 歯槽骨
  • 骨格
  • 噛み合わせ
  • 顔貌
  • 横顔

まで含めた総合診断が必要になります。

IPRは非常に小さな処置ですが、その0.1mm、0.2mmの積み重ねが、最終的な前歯の位置や噛み合わせに関係することがあります。

つまり、IPRは単なる「歯を少し削る作業」ではありません。

最終的な歯の位置から逆算して行う、矯正治療のスペースマネジメントの一部です。


矯正治療でIPRを提案されて不安な方へ

治療説明で、

「IPRをします」

と言われたときに、不安を感じる必要はありません。

一方で、内容を理解せずに処置を受ける必要もありません。

気になる場合には、

「なぜIPRが必要なのですか?」

「全部で何mm程度のスペースを作る予定ですか?」

「IPRをしなかった場合はどういう治療計画になりますか?」

「このスペースを使って、どの歯をどこへ動かすのですか?」

と確認してみてもよいでしょう。

矯正治療で重要なのは、IPRという処置そのものではなく、その処置が治療計画の中でどのような役割を持っているのかを理解することです。

初診相談では、まず現在の歯並びや口元についてのお悩み、希望する治療方法を確認します。

具体的な治療方針を判断するためには、必要に応じて精密検査を行い、

  • 歯並び
  • 歯の大きさ
  • 歯根
  • 骨格
  • 噛み合わせ
  • 顔貌
  • 横顔

などを評価します。

IPRは小さな処置ですが、矯正治療全体の中では重要な意味を持つことがあります。

「何mm削るか」だけを見るのではなく、そのスペースを使って歯をどこへ動かすのかまで理解して治療を選ぶことが大切です。


参考文献

  • 日本矯正歯科学会 診療ガイドライン
  • American Association of Orthodontists Clinical Guidelines
  • 厚生労働省 歯科口腔保健関連情報
  • 『THE ALIGNER ORTHO アライナー矯正治療の最適解:ALIGNER RADIO BOOK』
  • 『アライナー矯正歯科治療』
  • Gómez-Aguirre JN, et al. Effects of interproximal enamel reduction techniques used for orthodontics: A systematic review. Orthod Craniofac Res. 2022.
  • Koretsi V, et al. Enamel roughness and incidence of caries after interproximal enamel reduction: a systematic review. Orthod Craniofac Res. 2014.
  • Livas C, Jongsma AC, Ren Y. Enamel Reduction Techniques in Orthodontics: A Literature Review. Open Dent J. 2013.
  • Zachrisson BU, et al. Dental health assessed more than 10 years after interproximal enamel reduction of mandibular anterior teeth. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2007.
  • Clinical outcomes of interproximal enamel reduction in orthodontic treatment of children and adolescents: a systematic review. Eur Arch Paediatr Dent. 2025.

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監修歯科医師

熊本サニースマイル矯正歯科
院長 中西正光

所属学会等

  • 日本矯正歯科学会
  • 日本デジタル矯正歯科学会
  • 九州矯正歯科学会
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
  • インビザラインドクター

略歴

  • 久留米大学附設高等学校
  • 東京歯科大学卒業
  • 九州大学病院矯正歯科
  • 熊本県内大手医療法人の歯列矯正部門顧問

学会発表

  • Journal of Oral Biosciences Supplement 2018
    「Impaired store-operated Ca2+ entry in mouse salivary glands decreases the volume of saliva secretion」
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