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他院で「ワイヤーでしか治せない」と言われた出っ歯(上顎前突)・ガタガタ・過蓋咬合をマウスピースで改善した症例【20代男性・熊本市】

2026.08.03

目次

最初のまとめ(結論)

今回ご紹介するのは、叢生(ガタガタ)・出っ歯(歯性上顎前突)・過蓋咬合(ディープバイト)を伴う20代男性の症例です。
マウスピース型矯正装置を用いて、2年1か月で前歯・口元・噛み合わせを改善し、E-lineも基準値内まで改善しました。治療費は866,800円(税込)です。 過蓋咬合を悪化させることなく前歯を十分に後退させ、左右で異なる臼歯の移動様式をコントロールしながら治療を完了できた症例です。

「マウスピースでは難しい」と言われる症例でも、診断によっては治療できることがあります

「抜歯が必要だからワイヤー矯正しかできない。」
「過蓋咬合だからマウスピース矯正では難しい。」
このような説明を受け、不安になって来院される患者さんは少なくありません。
確かに、今回のような症例は決して簡単ではありません。
しかし、「難しい症例」と「マウスピース矯正では治療できない症例」は同じではありません。

大切なのは、

  • どの歯をどの順番で動かすのか
  • どのくらいの矯正力をかけるのか
  • 治療中に起こり得るリスクをどのように回避するのか

を正確に診断し、治療計画へ反映できるかどうかです。
今回は、そのような診断と治療計画によって、マウスピース型矯正装置のみで良好な結果が得られた症例をご紹介します。


出っ歯(上顎前突)・ガタガタ・過蓋咬合とは?

出っ歯(上顎前突)とは?

上の前歯、または上あご全体が前方に位置し、口元が突出して見える状態です。
横顔ではE-lineより口唇が前方に位置することが多く、見た目だけでなく口唇閉鎖不全や口呼吸の原因になることもあります。

ガタガタ(叢生)とは?

歯が並ぶスペースが不足し、歯が重なったりねじれたりしている状態です。
歯磨きが難しくなり、虫歯や歯周病のリスクも高くなります。

過蓋咬合(ディープバイト)とは?

噛んだときに上の前歯が下の前歯を深く覆ってしまう噛み合わせです。
今回のように前歯を後退させる治療では、過蓋咬合がさらに深くなってしまう危険性があります。
そのため、
前歯を後退させる治療

噛み合わせを浅くする治療
を同時に進める必要があります。
この力のコントロールが、この症例の最も重要なポイントでした。


患者さんの情報

年代 20代
性別 男性
地域 熊本市
主訴 前歯と口元を引っ込めたい
診断名 叢生および過蓋咬合を伴う歯性上顎前突症
症状 ガタガタ・出っ歯・過蓋咬合
使用装置 マウスピース型矯正装置
治療期間 2年1か月
治療費 866,800円(税込)
抜歯の有無 上顎左側第一小臼歯1本

患者さんは鹿児島県在住でしたが、
「移動距離は気にしないので、マウスピース矯正できちんと治療してくれる医院を探している」
という思いで当院を受診されました。
また、
「本当にマウスピース矯正で治療できるのでしょうか?」
という不安を強く持たれていました。


初診時の状態

Before(初診時)

前歯部の前突感の初診時の口腔内写真(20代男性・熊本市・治療前)

口腔内所見

初診時には、

  • 中等度の叢生
  • 歯性上顎前突
  • 過蓋咬合
  • 両側Angle ClassⅡ(左側はFull ClassⅡ)

を認めました。
上顎歯列正中は顔面正中に対して約1mm左側へ偏位していました。
横顔ではE-lineより約3mm口元が突出しており、患者さん自身も口元の突出感を最も気にされていました。

■ セファロ分析(治療開始前)

計測項目 正常範囲 本症例 判定
ANB 2〜4° 4.28° 骨格ClassⅡ
U1 to FH 107〜120° 128.67° 著しい唇側傾斜
L1 to Mand 45〜51° 47.27° 正常範囲
Overbite 2〜3mm 4mm 過蓋咬合
U-lip to E-line 0〜-2mm +3mm 口元突出

セファロ分析では、骨格性ClassⅡに加え、上顎前歯が大きく唇側へ傾斜していることが確認されました。
一方、下顎前歯は正常範囲内であり、主な改善対象は上顎前歯の位置と歯軸でした。


パノラマ所見

  • 埋伏歯なし
  • 歯根形態異常なし
  • 歯周組織異常なし
  • 下顎両側第三大臼歯・上顎左側第三大臼歯は完全埋伏

顎関節にも異常所見は認めませんでした。


この症例で最も注意すべきポイント

一般的に、抜歯を行って前歯を後退させると、前歯の被蓋が深くなり、過蓋咬合が悪化する傾向があります。
つまり、
「前歯を引っ込めたい」
という治療と
「噛み合わせを浅くしたい」
という治療が互いに相反する方向へ働くため、力のコントロールが非常に難しくなります。

さらに今回は、

  • 右側はsequential distal movementによる遠心移動
  • 左側は抜歯スペースの閉鎖による近心移動

という左右で異なる移動様式を一つのマウスピース内で同時にコントロールする必要がありました。
このため、マウスピースにどのような矯正力が加わるかを正確に理解したうえで、歯の移動順序やステージングを細かく設計することが重要でした。

なぜ左側だけ抜歯を選択したのか

上顎左側についても、非抜歯で遠心移動を行う方法は検討しました。
しかし、必要な遠心移動量が大きくなるほど長期安定性は低下する可能性があります。
今回は、治療直後だけでなく長期的な安定性も重視し、上顎左側第一小臼歯の抜歯を選択しました。

この症例ではマウスピース矯正が適していましたが、すべての症例で同じ治療法が選択できるわけではありません。症状や骨格、歯の移動量によっては、ワイヤー矯正や補助装置を併用した方が望ましい場合もあります。


治療経過と結果

治療開始

治療開始後は、事前に立案した治療計画どおりにマウスピース型矯正装置による歯の移動を開始しました。
この症例では、

  • 右側はsequential distal movementによる臼歯部遠心移動
  • 左側は抜歯スペースを利用した臼歯部近心移動

という、左右で異なる移動様式を同時に進める必要がありました。
さらに、上顎前歯を後退させながら過蓋咬合を改善するため、下顎前歯のintrusion(圧下)を治療期間全体を通して少しずつ行いました。


治療中に特に注意したこと

この症例で最も難しかったのは、「前歯を引っ込めること」と「過蓋咬合を改善すること」を同時に成立させることでした。
一般的に、抜歯スペースを利用して上顎前歯を後退させると、前歯の被蓋はさらに深くなりやすく、過蓋咬合が悪化する傾向があります。
そのためワイヤー矯正でも非常に難易度が高い症例とされています。
今回は、

  • 上顎前歯の後退量
  • 下顎前歯の圧下量
  • 臼歯部の固定
  • 歯軸の変化
  • マウスピースに発生する矯正力

これらを総合的に考えながら、各ステージで歯の移動量を細かく設定しました。
特に下顎前歯の圧下は一度に大きく動かそうとすると予知性が低下するため、治療期間を通してゆっくりと積み重ねるように設計しています。
また、左右で大臼歯の移動方向が異なるため、マウスピース内で発生する力のバランスが崩れると、予定していない歯の移動やアライナーの適合不良につながる可能性があります。
そのため、各ステージで歯の動きを確認しながら慎重に治療を進めました。


治療中の経過

治療は計画どおり順調に進行しました。
大きな設計変更や追加処置を必要とすることはなく、マウスピース型矯正装置のみで最後まで治療を継続できました。
患者さんのマウスピース装着時間も非常に良好で、交換スケジュールもきちんと守っていただけたことが、治療をスムーズに進められた大きな要因でした。
マウスピース矯正は装置そのものだけではなく、患者さんの協力度が治療結果へ大きく影響します。
今回の症例では、毎日の装着時間や通院状況も良好で、計画どおりの歯の移動を得ることができました。


治療結果

After(治療後)写真

前歯部の前突感の治療後の口腔内写真(20代男性・熊本市・治療後)

前歯

大きく唇側へ傾斜していた上顎前歯は、セファロ分析において基準値へ近づくよう適切に舌側傾斜させることができました。
その結果、口元の突出感も改善し、自然な前歯の位置関係を獲得することができました。

奥歯

右側はClassⅠ、左側はClassⅡ finishという治療計画どおりの臼歯関係を構築しました。
左右の移動様式が異なる症例でしたが、予定どおりに仕上げることができています。

E-line

治療前にはE-lineより約3mm前方へ突出していた口元は、治療後には基準値内まで改善しました。
横顔の印象も大きく変化し、口唇閉鎖も自然に行えるようになりました。

正中

顔面正中に対して左側へ偏位していた上顎歯列正中は改善し、上下顎とも良好に一致しました。

ガタガタ(叢生)

中等度の叢生は完全に改善し、歯列全体が整いました。
歯磨きもしやすくなり、清掃性の向上も期待できます。

出っ歯(上顎前突)

患者さんが最も気にされていた前歯と口元の突出感は大きく改善しました。
前歯の位置だけでなく歯軸も適切な方向へ修正できたことで、見た目だけでなく機能面も改善しています。

過蓋咬合

今回の症例で最も重要だったポイントは、過蓋咬合を悪化させることなく改善できたことです。
抜歯スペースを利用して前歯を後退させるだけでは、被蓋がさらに深くなってしまう可能性があります。
しかし今回は、下顎前歯の圧下や歯軸コントロールを組み合わせることで、過蓋咬合を悪化させることなく正常な被蓋関係へ改善することができました。
これは今回の治療計画において最も重要視していた目標の一つでした。


患者さんの感想

患者さんは、
「理想どおりの口元になりました。」
と大変喜ばれていました。
長期間にわたりマウスピースの装着にも真摯に取り組んでいただいた結果、計画どおりの治療結果につながりました。


保定

動的治療終了後は、マウスピース型保定装置による保定を開始しました。
矯正治療は歯を動かして終わりではありません。
特に今回のように前歯を大きく後退させた症例では、後戻りを防ぐためにも保定期間が非常に重要になります。
患者さんには保定装置の装着時間や定期的なメインテナンスの重要性について十分に説明し、長期的に安定した咬み合わせを維持できるようサポートを続けています。


院長より

診断が、治療結果を左右します

今回の症例で最も重要だったのは、「マウスピース矯正で治療できるか」という判断ではなく、どのような治療計画であれば安全かつ予知性高く治療できるかを見極めることでした。
この症例では、上顎左側第一小臼歯の抜歯スペースに対して、臼歯部をどこまで近心移動できるのかを慎重に検討しました。
さらに、

  • セファロ分析
  • 歯軸の評価
  • 骨格の分析
  • 歯槽骨との位置関係
  • 過去の文献・症例報告

を総合的に評価した結果、難易度は高いものの、マウスピース型矯正装置のみで十分対応可能と判断しました。
近年のマウスピース矯正は年々進歩していますが、すべての症例がマウスピースだけで治療できるわけではありません。
一方で、「難しい症例だからワイヤー矯正しかできない」とも限りません。
重要なのは、その症例がマウスピース矯正という装置の限界なのか、それとも対応する歯科医師の限界なのかを正しく見極めることです。
当院では、装置ありきではなく、一人ひとりの症例に合わせて治療方法を選択しています。
マウスピース矯正・ワイヤー矯正の両方に対応しているからこそ、それぞれの特徴を踏まえた上で、患者さんにとって最適な治療法をご提案したいと考えています。


同じ症状で悩んでいる方へ

出っ歯やガタガタ、過蓋咬合でお悩みの方の中には、
「マウスピースでは治療できません。」
「抜歯するならワイヤー矯正になります。」
と説明を受け、不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、その診断が適切なケースもあります。
一方で、今回のように十分な検査と診断を行った結果、マウスピース矯正が適していると判断できる症例も存在します。
治療方法は、歯並びだけで決まるものではありません。
骨格、歯軸、歯槽骨、必要な移動量、長期的な安定性など、多くの要素を総合的に評価して決定します。
もし治療方法について迷われている場合は、一度セカンドオピニオンを受けてみるのも一つの方法です。


この治療法の限界

今回はマウスピース型矯正装置のみで良好な結果を得ることができました。
しかし、すべての症例で同じような治療が可能というわけではありません。
歯の移動量が大きい場合や、骨格的な問題が強い場合、歯の位置や歯周組織の状態によっては、

  • ワイヤー矯正
  • アンカースクリュー
  • 顎間ゴム
  • 外科的矯正治療

などを組み合わせた方が、安全かつ確実に治療できることもあります。
当院では、マウスピース矯正にこだわるのではなく、患者さんにとって最善の治療方法をご提案しています。


よくある質問(FAQ)

Q

治療期間はどれくらいでしたか?

A

今回の症例では、約2年1か月で動的治療を終了しました。
治療期間は歯の移動量や患者さんの装着時間によって変わるため、すべての方が同じ期間になるわけではありません。

Q

費用はどれくらいかかりましたか?

A

本症例の治療費は866,800円(税込)でした。
検査内容や治療方法によって費用は異なるため、詳しくは初診相談時にご説明しています。

Q

抜歯は必要でしたか?

A

本症例では、上顎左側第一小臼歯を1本抜歯しました。
非抜歯治療も検討しましたが、長期的な安定性や必要な歯の移動量を考慮し、抜歯が最も適切と判断しました。

Q

出っ歯でもマウスピース矯正で治療できますか?

A

症例によります。
歯だけが前に出ている歯性上顎前突であれば、マウスピース矯正で改善できる場合があります。
一方で、骨格的な問題が大きい場合などは、ワイヤー矯正や外科的治療を組み合わせた方が良いケースもあります。
精密検査と診断が重要です。

Q

治療のリスクはありますか?

A

矯正治療には、

  • 歯根吸収
  • 歯肉退縮
  • 歯髄壊死
  • 後戻り
  • 顎関節への負担

などのリスクがあります。
そのため当院では、治療中も歯の移動状態や歯周組織の状態を定期的に確認しながら、安全性に配慮して治療を進めています。

Q

後戻りはしますか?

A

保定装置を適切に使用しない場合は、歯が元の位置へ戻ろうとする「後戻り」が起こる可能性があります。
今回も治療終了後はマウスピース型保定装置を使用し、定期的な経過観察を継続しています。
長期的に安定した歯並びを維持するためには、保定期間も矯正治療の重要な一部です。

Q

同じ症例でも同じ治療になりますか?

A

なりません。
見た目が似ている歯並びでも、

  • 骨格
  • 歯軸
  • 歯槽骨の状態
  • 歯周組織
  • 必要な歯の移動量
  • 年齢
  • 長期的な安定性

などが異なるため、治療方法も変わります。
そのため、他の症例をそのまま当てはめることはできません。


リスク・副作用

矯正治療には、以下のようなリスク・副作用があります。

  • 歯根吸収(歯の根が短くなる症状)
  • 歯肉退縮(歯茎が下がる症状)
  • アンキローシス(歯と骨が癒着し歯が動かなくなる状態)
  • 歯髄壊死(歯の神経が失活してしまう状態)
  • 顎関節症(顎の痛み)
  • マウスピース型矯正装置は、装着時間が不足すると計画通りに歯が動かず、治療期間の延長や装置の再製作が必要になることがあります。

この症例で特に注意した点

今回の症例では、上顎前歯を舌側へ大きく移動させる必要がありました。
そのため、歯冠だけでなく歯根の位置も慎重にコントロールし、根尖が歯槽骨から逸脱して歯髄壊死や歯周組織への悪影響を生じないよう配慮しながら治療を進めました。


参考文献

  • 1. THE ALIGNER ORTHO アライナー矯正治療の最適解:ALIGNER RADIO BOOK
  • 2. アライナー矯正歯科治療

この症例のポイント

  • 20代男性の出っ歯(歯性上顎前突)・ガタガタ・過蓋咬合症例
  • 上顎左側第一小臼歯抜歯を併用したマウスピース矯正
  • 右側はsequential distal movement、左側は抜歯スペース閉鎖という異なる移動様式を設計
  • 下顎前歯のintrusionを治療期間全体でコントロールし、過蓋咬合を悪化させることなく改善
  • 2年1か月でE-line・歯軸・咬合・正中・叢生を良好に改善

本症例は、「難しい症例=マウスピース矯正では治療できない」ではないことを示す一例です。一方で、同じ診断名でも骨格や歯の状態、必要な移動量によって適切な治療方法は異なります。治療法は装置の種類だけでなく、精密な診断と治療計画に基づいて選択することが重要です。


写真

Before(初診時)

After(治療後)

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監修歯科医師

熊本サニースマイル矯正歯科
院長 中西正光

所属学会等

  • 日本矯正歯科学会
  • 日本デジタル矯正歯科学会
  • 九州矯正歯科学会
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
  • インビザラインドクター

略歴

  • 久留米大学附設高等学校
  • 東京歯科大学卒業
  • 九州大学病院矯正歯科
  • 熊本県内大手医療法人の歯列矯正部門顧問

学会発表

  • Journal of Oral Biosciences Supplement 2018
    「Impaired store-operated Ca2+ entry in mouse salivary glands decreases the volume of saliva secretion」
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